有明海漁民・市民ネットワーク(HP仮オープン中)

請求異議訴訟での国の請求を棄却をすることを求める
要請書を福岡高裁を提出

 国が諫早湾干拓の開門不履行に対する間接強制(制裁金)の停止を求めている請求異議訴訟の判決が、2018年7月30日に福岡高裁で予定されています。有明海漁民・市民ネットワークでは、この訴訟において国の請求を棄却することを求める要請書を、2018年7月9日に福岡高裁に提出しました。

要請文のPDFファイル


2018年7月9日

福岡高等裁判所裁判長 西井 和徒 様

請求異議訴訟〜国の請求を再び棄却することを求める

有明海漁民・市民ネットワーク

  諫早湾潮受け堤防排水門の常時開放を命じた確定判決(2010年12月福岡高裁。以下、確定判決)に基づく強制執行(間接強制)の停止を国が求めている請求異議訴訟について、私たちは、5月15日に、「開門しない前提での一方的な和解協議を進める福岡高裁に抗議する」と題する要請書を届けました。しかし、福岡高裁は、その後の5月22日、開門しないことを前提とする和解案を再び示すとともに、国の請求を認めることを示唆しました。
 私たちは、国の下請けとなって確定判決が命じた開門を諦めるよう迫る福岡高裁に対して、厳重に抗議します。私たちは、三権分立と法秩序の維持や司法の信頼性の観点から、また開門問題の本質的な解決をめざす立場から、佐賀地裁の原判決を維持して、国の請求を再び棄却することを強く求めます。

 以下は、その理由です。

1.「有明海再生にマストではない」基金案で開門請求権の放棄を迫る暴挙は許されない
 斎藤農水大臣は、本年5月30日の国会答弁の中で、「国の基金案は有明海再生にマストというものではない」「有明海の再生そのものについては、特措法に基づいてしっかり進めていく」などと述べています。そのことは、6月6日に行われた漁民側と農水省との直接交渉においても、農水省側から述べられています。
 確定判決は、漁業行使権の妨害を回避する措置として開門が必須であるとする漁業者側の主張を裁判所が認めたものです。開門に代わる措置であるためには、漁業行使権の妨害を回避するために必須のものでなければなりません。有明海再生にマストではないことを国も認める基金案が、開門に代わる措置になり得ないことは明らかです。
 有明海再生のためには、開門調査が必須であり、それに代わるものはありません。基金事業は、先の要請書で述べたように、開門とは別に特措法に基づいて行うべきです。

2.開門調査の意義を否定することは、司法の信頼を失墜させること
 そもそも確定判決は、5年間の水門開放調査を命じたものです。和解勧告では、「開門調査をしても有明海の環境変化の原因が明らかとなる保証はない」と述べていますが、それは確定判決の否定に他なりません。これまでに国は様々な調査を行ってきましたが、唯一敬遠してきたものが諫早湾の開門調査です。原因究明に必須だからこそ、福岡高裁は確定判決で長期にわたる開門調査を命じたのです。短期開門調査の実績があり、有明海異変と諫早湾干拓事業との因果関係を示す新しい研究報告も出ている現在、開門調査の意義はますます強まったと言えます。確定判決で認めている開門調査の意義を同じ裁判所が否定することは、司法の信頼を失墜させる暴挙と言わざるを得ません。

3.荒唐無稽な国の主張は、確定判決に基づく強制執行を排除する根拠にはなり得ない
 請求異議訴訟において国は、(1)共同漁業権更新に伴う請求権消滅論(2)対策工事不能論(3)異常気象論(4)開門差し止め仮処分による板挟み論(5)(漁獲量の回復など)事情変更論(6)権利濫用論(7)間接強制金の受領論 などの主張をしています。しかし、漁業者側が指摘するように、これらは何れも苦し紛れの主張に過ぎません。これらの主張は、確定判決や間接強制といった司法制度の趣旨をないがしろにするものであり、司法の信頼性の観点からも到底認められるものではありません。

4.本質的な和解実現のためには、開門義務が厳然とあることが必須
 確定判決後の国は、開門差し止め訴訟や和解協議などの場を通じて、開門阻止を掲げる長崎県やそれに従う住民団体と結託して、開門義務の無効化を追求しています。和解協議について言えば、開門阻止派は、はじめから「開門しないことが前提でなければ和解のテーブルにつかない」という姿勢です。しかし、農業者の中からも開門を求めて訴訟が起きている現状から、開門阻止派の頑なな姿勢が国や長崎県の縛りによるものと推察でき、農業者もまた国の事業による被害者であることが分かります。本質的な解決のためには、こうした縛りから農業者が解放され、前提条件を付けずに自由に話し合える環境が必要です。開門に伴う農業被害を回避する方策は国からも示されており、話し合いの余地は十分にあります。国が強制執行から逃れることはできないと観念して、誠実に和解協議に臨むよう、確定判決後も続く国の不誠実な姿勢について、これを許さないという司法の毅然とした対応が不可欠です。
 第2次和解勧告で福岡高裁は、国の基金案受け入れという「現実的な選択」をした漁業団体の重い決断を考慮するよう指摘していますが、先の要望書でも述べたように、そうした国の恫喝こそが不誠実そのものであり、司法がこれを許し一体化したのでは、根本的な有明海再生と農漁共存の地域再生は永遠に望めません。

以上