有明海漁民・市民ネットワーク(HP仮オープン中)

福岡高裁の一方的な和解協議の進行に抗議して
要望書を提出

 有明海漁民・市民ネットワーク(漁民ネット)では、諫早湾干拓問題の訴訟において、国に追従する形で、開門しないことを前提とした一方的な和解協議を進める福岡高裁に抗議して、2018年5月15日(火)に下記の要請文を提出しました。

要請文のPDFファイル


2018年5月15日

福岡高等裁判所裁判長 西井 和徒 様

開門しない前提での一方的な和解協議を進める福岡高裁に抗議する

有明海漁民・市民ネットワーク

 諫早湾潮受け堤防排水門の常時開放を命じる確定判決についての請求異議訴訟で、福岡高裁は、開門しないことを前提とする国の基金案によって解決を図るよう和解勧告しました。同時に、和解協議決裂の場合は、確定判決の無効化を求める国の主張を認めることを示唆しました。このことについて、私たちは、有明海の漁民を中心とする団体として、厳重に抗議します。

 勧告は、確定判決が認めた開門の必要性を否定し、国の基金案を一方的に評価して、これこそが唯一現実的な方策としています。しかし、国の基金案は、根本的な有明海再生につながらないことから、長崎地裁での一年にわたる協議の中で、漁業団体や漁民の同意を得られずに頓挫したものです。開門請求権を放棄するに足る方策とは到底言えず、漁業被害にあえぎ開門を求める有明海漁民の切実な願いを背景に、各漁業団体も開門の旗を降ろしてはいません。
 また、裁判所自らが確定判決をないがしろにして、確定判決の無効化を図ることは、司法制度そのものを揺るがす前代未聞の事態であって、絶対に許されてはなりません。国が、原告の漁業権の更新期限をはじめ、問題の本質とはかけ離れた苦し紛れの主張の羅列しかできない中、司法がこれを認めることは、常識では理解できないことです。もし認めるなら、司法の信頼は地に落ち、全ての訴訟に通じる重大な禍根を残すことになります。
 本来、和解協議とは、関係当事者の利害状況を適切に評価し、公平に調整すべきものです。前提条件を付けずに、開門もふくめて、お互いの主張について十分に話し合い、合意を目指すべきです。新たに、干拓地の農業者も開門を求めて提訴した状況をも鑑みれば、国に追従するかたちで開門しないことを前提とする和解を一方的に推し進めることは、甚だ不公平です。

 5月1日付の要望書で3県漁連が国の基金案による和解協議を望む考えを示しましたが、これは国が許認可や補助金の権限を武器に強引に基金案の承諾を迫った結果であって、漁民の本心ではありません。3県漁連は、元々開門とは別に、独自の基金を国に求めていました(2015年5月に130億円規模の基金新設を要望しましたが、国は必要性に疑問を呈して要望を拒絶しました)。2016年8月26日の要望書において、3県漁連は、再生事業と訴訟を結び付けることなく、基金的予算を講じるよう要望していました。ところが、国は、これを逆手にとって、拒絶したはずの基金新設を「開門しないことを前提とする」ものとしてリンクさせたのです。本来、基金は訴訟とリンクさせる必然性など全く無いものであり、国の責任で独自に行うべきものです。漁業団体の弱みにつけ込むようなかたちで、基金を人質に非開門を迫る理不尽な国の対応こそが責められるべきです。
 そもそも国は、諫早湾干拓事業の着工(1989年)にあたって、「影響は計画地の近傍に限られる」と説明して、漁業団体から事業の同意を得ました。ところが、実際には広範囲の漁業被害が発生し、今も継続しています。有明海異変が顕在化し、第三者委員会から中長期開門調査を求める見解が出ても、国は開門に代わる有明海再生事業を行うとして開門から逃げ回りました。再生事業開始から14年、今も漁業被害は続いています。佐賀地裁で開門を命じる判決が出ても(2008年)、国は手前勝手な開門アセスメントを行うとして、開門に後ろ向きの姿勢を正当化しました。
 このように、国は、地域住民をだまして強引に干拓事業を進めてきましたが、2010年に福岡高裁が言い渡した開門判決は、こうした不誠実な国の姿勢に対する警告でもありました。未だに反省がない国に対して、制裁金支払いを免除することは、理不尽な対応をし続ける国の姿勢を容認するものに他なりません。そして、現状の和解協議の進め方は、漁業団体を執拗に脅して基金案を迫る国の対応を追認するものであり、私たちはこうした形での協議継続を望みません。国の基金案を受け入れることは、「宝の海」を売り渡すことに他ならず、5月1日付の3県漁連の要望書は有明海漁民の本心とはかけ離れたものです。
 なお、同要望書にある「こまめな排水や排水ポンプの増設」は、開門に代わる方策とは到底なり得ず、和解協議と関連付けるのは全くの筋違いです。

以上をふまえ、私たちは、福岡高裁に対して、以下のことを要請します。

  1. 開門しないという前提に固執せず、開門も含めて当事者が十分に話し合う、公平公正な和解協議を開始すること
  2. 開門を命じた確定判決の無効化を許さず、判決に従わずに不誠実な対応をし続ける国に対して厳しい態度で臨むこと。
  3. 漁業被害に苦しむ有明海の多くの漁民が、開門を求め続けていることを認識すること。

以上